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浦和地方裁判所 平成9年(行ウ)14号 判決

原告

誠成公倫(X)

右代表者代表役員

八島文江

右訴訟代理人弁護士

的場徹

佐藤高章

福﨑真也

被告

浦和市建築主事(Y) 茂木詔男

右訴訟代理人弁護士

新井修市

横山豪

"

事実及び理由

第二 事案の概要

二 本件に至る経緯(末尾に証拠を記載した事実を除き、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一)  原告は、肩書地に本部を有する宗教法人である。

(二)  被告は、浦和市において建築確認の行政処分を行う権限を有する行政庁である。

2  原告は、平成八年一二月四日、被告に対し、建築基準法六条一項三号に該当する建築物である本件建築物の建築計画につき、建築確認申請(以下、「本件申請」という。)を行い、被告は、当該建築確認申請を受理した。

3  ところが、右申請前の平成八年九月から同九年八月八日にかけて、建築予定地周辺の住民らから、浦和市の担当者らに対し、次のとおり本件申請の不許可を求める旨の陳情・要望等があった。すなわち、(一) 平成八年九月一八日、「広ケ谷戸環境を守る会」が、浦和市長あてに、九一七八人の署名を添えて、本件建築物の建築によって、<1>騒音、振動電波障害の発生、<2>大谷口小学校及び同中学校の授業への影響、<3>緊急避難場所の隣接地であり、災害時において高層建築物による不測の事態の発生、<4>交通量の増加による事故多発、環境悪化等が予見されるので、建設計画は白紙撤回し、公園、公共施設等に代替利用して頂きたい旨陳情した。(二) このほか、平成八年一〇月一八日から平成九年八月八日までの間、一〇回に亘って、近隣住民の「大谷口子供会代表」と称する倉林洋子や広ケ谷戸白紙撤回を求める会(以下、「求める会」という。)等の本件建築物の建築に反対する住民ら(以下「反対派住民ら」という。)が浦和市役所を訪れ、被告や浦和市長、助役らに対し、右(一)と同趣旨の理由を述べて、建設計画の見直しを要望するとともに原告に対しては本件建築物の開発手続を進めることなく住民との話し合いをするように強く行政指導をすることを求める旨要請する陳情等をした。

4  これに対し、被告は、原告の担当者である川部宏(以下、「川部」という。)らに対し、この陳情等を直ちに逐一連絡し、これら住民とよく話し合い、その理解を求めるように勧めた。これに応じて、原告は、被告に対し、二回に亘って次の誓約書を提出した。すなわち、

(一)  平成八年一二月三日、原告は、被告に対して、浦和市長あての次の誓約書を提出した(以下、「平成八年誓約書」という。)。

本件建築物について、建築確認申請を御受付頂きたくお願い申しあげます。八月来、近隣の皆様と話し合いをする努力を続けて参りました。今後も十分話し合いを続け、御庁に対してご迷惑をかけないよう致します。本八年度は優良宅地に伴う所得税の税率が二〇パーセントでございますが、明九年度より二六パーセントになり、差額負担も莫大なものになります。地元近隣との十分な話し合いができる迄、許可につきましては御庁にお預かり頂くことをここに誓約いたします。

(二)  原告は、平成九年三月五日、被告に対し、浦和市長あての次の誓約書を提出した(以下、「平成九年誓約書」という。)。

今般、本件建築物につきまして、平成八年一二月四日に建築確認申請を御受付頂きましたが、許可については地元近隣との十分な話し合いができるまで御庁にお預かり頂くことをお約束致しております。今回、開発申請の許可を頂きましても、建築確認申請の確認についてはお預けすることを御約束致します。但し、当法人と致しましても、平成九年六月を着工の目途としておりますので、目標に向かって今後も話し合いは継続していくことをここに誓約致します。

5  従前の原告と住民らとの話し合いは、以下のとおりである。

(一)  平成八年九月一八日、原告は、被告から反対派住民らの前記陳情を知らされ、近隣住民らに対し本件建築物に関する説明会を開催しようとしたが、反対派住民らはこれを先延ばしにした。原告は、同月二六日に「誠成公倫をご理解いただく会」を開催したが、騒音、振動等電波障害の発生等のおそれのある近隣住民若干名が参加しただけであった。反対派住民らは参加せず、かえって、原告主催の説明会に参加しないように呼び掛けた。

(二)  原告は、同年一〇月四日、再び「誠成公倫をご理解いただく会」を開催し、その後も「近隣説明会」などを企画したものの、反対派住民らはこれに参加しなかった。

(三)  原告と反対派住民らの一部とは、同年一一月一七日に、初めて話し合いの場を持ったが、反対派住民らは宗教問題を理由に建築の即時撤回を求めるのみであり、それ以上話はできなかった。

(四)  原告と反対派住民らの一部とは、同年一二月八日、平成九年一月一九日、同年二月二三日、同年三月一日、同年四月六日、同年六月一四日にもそれぞれ話し合いの場を持った。しかし、反対派住民らは、本件建築物の建築の中止及び白紙撤回を求めるだけで、論議は一向に進まなかった。そして反対派住民らは、原告だけでなく、平成九年五月二九日に本件建築物の建築を請け負った鹿島建設株式会社に対してまで、本件建築物の建築工事の中止を要求するに及んだ。右住民らは、原告が本訴を提起した後も原告に対し、本件建築物の建築の中止及び白紙撤回を求めている。

6  原告は、平成九年五月二七日、被告に対し浦和市長あてに、「本件建築確認申請書の確認をして欲しい」旨の陳述書を提出し、同年六月二七日、被告に対し浦和市長あてに、「本件建築物確認申請書の確認を早急にして欲しい」旨の陳述書を提出した。更に、原告は、平成九年七月一日、被告に対し浦和市長あてに、前記二通の誓約書を取り下げる旨の上申書を提出した。

7  被告は建築基準法に基づく建築確認申請に対する応答期限である平成八年一二月二五日を経過したにもかかわらず、本件申請に対し許否いずれの応答もしていない。

〔中略〕

第三 争点に対する判断

一  法六条によれば、前記のとおり、建築主事は、建築確認の申請書が提出された場合には、当該申請が法六条二項の要件等を具備しているか否かを審査して、その申請の受理、不受理を決定し、受理をした場合には、申請に係る建築物の計画が法律等に適合するか否かを審査し、本件建築物については、受理後二一日以内に、その結果を申請者に通知しなければならないものとされている。

しかし、本件においては、本件申請が受理されてから口頭弁論終結の日(平成九年一二月一日)まで約一年間が経過しているので、特段の事情がない限り、被告が本件確認申請に対し何らの処分もしないことは違法であるといわなければならない。

二  そこで、右特段の事情の有無について判断する。

1  先ず、被告が本件申請に関して行政指導を行っていたかどうかを検討すると、前記のとおり、被告は、反対派住民らから陳情を受けたところから、原告に対し、反対派住民らと話し合い、その理解を求めるように勧めたところ、〔証拠略〕によれば、被告は、原告に対する行政指導として右勧告を行い、原告もこれが被告の行政指導であることを理解しており、このような行政指導に応じて、前記のような説明会を企画し、及び合計七回にわたって反対派住民らとの話し合いを行い、また、平成八年誓約書及び平成九年誓約書を提出したことが認められる。

2  しかし、行政指導の内容は、あくまで相手方の任意の協力によって実現されるものであるから、原告が行政指導に応じない意思を明確に表明し、本件申請に対する判断を求めている場合には、被告において、原告のこのような意思に反してその判断を留保することは許されないというべきである。

そこで、次に、原告主張のように原告が被告の右行政指導を拒絶する意思を表明したかどうかを検討する。

原告が被告に対し、平成九年七月一日、平成八年誓約書及び平成九年誓約書を取り下げる旨の上申書を提出したことは当事者間に争いがなく、その後、同月一一日に、原告は被告を相手方として本訴を提起し、右訴状が同月一七日に被告に送達されたことは記録上明らかである。

したがって、遅くとも本件訴状の送達時以降は、原告は被告に対し、行政指導に応じないとの意思を真摯かつ明確に表明し、確認申請に対する応答を求めたものと認めるのが相当である。

3  もっとも、行政指導に対する不協力が社会通念上正義の観念に反する場合には、行政庁が行政指導を行っていることを理由として処分を留保することも違法といえないから、本件において、原告が行政指導に応じないことが社会通念上正義の観念に反するかどうかについても、判断する。

(一)  〔証拠略〕によれば、本件建築物の建設予定地が大谷口小学校・中学校・幼稚園に隣接しており、本件建築物は宗教団体である原告の比較的大規模な教団施設であることが認められるから、反対派住民らの主張している、右学校における授業への影響、交通量の増加による事故多発、環境悪化等の住民らの不安が全く根拠のないものとは、直ちに断定し難い。したがって、被告が原告に対し、反対派住民らに対してこのような不安を取り除くために説明・協議をするように行政指導したこと自体は、正当であるということができる。

(二)  しかしながら、前記のとおり、反対派住民らは原告と話し合いの場を持つことさえ拒否したことがあるほか、原告は反対派住民らと合計七回に亘って話し合いをしたが、反対派住民らは本件建築物の建築の中止、白紙撤回を求める態度を固持したままである。したがって、原告が被告に対し、その行政指導に不協力の態度を明らかにした平成九年七月一日ないしは同月一一日の時点では、反対派住民らとの間で話し合いによって事態を解決しうる見込みはなかったというべきである。他方、本件申請について何らの処分もなされない間は、本件建築物を建築できるかどうかが未確定の状態となり、そうすると、本件建築物の建築予定地を確保し本件建築物を建築するための準備についての原告の負担が増大するものと解される。

(三)  以上のような、原告が従前被告の行政指導に応じて反対派住民らと話し合いをした経過、反対派住民らの拒否の態度、今後話し合いにより解決される見通しが乏しいこと、及び本件申請に対する処分を留保されることにより原告の受けている不利益などを総合して考慮すると、原告が被告の行政指導を拒絶し本件申請についての判断を求めたことをもって、社会通念上正義の観念に反するものということはできない。

4  そして、本件全証拠によっても、他に被告が本件申請に対して何らの処分をしないことを正当化する事情があるとは認められないから、被告が本件申請に対して処分をしないことは、違法であるというほかない。

三 よって、本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 大喜多啓光 裁判官 小島浩 鈴木雄輔)

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